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日本野鳥の会 諏訪支部

夏のジョウビタキ ---

 ジョウビタキは、日本全国に冬鳥として飛来し、人気がある鳥です。近年、諏訪地方では夏にも見られるようになりました。連載を始めるにあたり、本州での初記録の発端と、調査・研究の開始の様子を、論文には記載できなかったエピソードを交えてお伝えします。

富士見高原での発見は不思議な因縁?

 ジョウビタキの主な繁殖地は、バイカル湖からアムール流域、モンゴル、中国北東部、朝鮮などとされています。日本国内でも 1983 年に北海道糠平(ぬかびら)温泉で繁殖が確認されていますが、その後の北海道での繁殖は断続的でした。
 林支部長(当時)の話によると、本州で初めての繁殖確認の発端は、2010年6月20日「中西悟堂事跡の旅」で長野県から山梨県に向かう途中の中村滝男氏(生態系トラスト協会々長,高知県高知市)が、富士見高原で偶然に餌を咥えたジョウビタキの雄が地上から飛び去る姿を目撃したことにあったそうです。翌日早朝に中村氏とこの行事に参加していた林支部長らも加わり目撃現場を調査中、ミヤマザクラの幼木の茂みで寄り添う5羽の巣立ち雛を発見し、さらに約40m 離れた樹間で囀っていた雄が雌と共に飛来し雛への給餌を確認したことから、その後の調査が始まりました。
 中村氏と林支部長は後に、このジョウビタキを「ゴドウビタキ」と名付けています。何か不思議な因縁を感じたからでしょう。


巣立ち雛5羽に給餌する雄。本州で初めてジョウビタキの繁殖を確認した写真
 林支部長が、観察開始にともない急いで購入したカメラで、いの一番に撮影したのがこの記念すべき一枚です。日本鳥学会誌の編集幹事からジョウビタキ親子の写真はないかとたずねられて、この写真を提案した結果、論文掲載号の表紙を飾ることになりました。

本格的な調査の開始

 私は、その年の夏、林支部長に誘われて、観察記録を共有しながら2人で調査を始めました。調査の目的は、富士見高原の記録が偶発的なものか、繁殖が継続的に行われているかを確認することであり,同地と近隣の地域で4年間,調査を実施しました。
 富士見高原で巣立ち雛を発見した年には巣の特定に至りませんでした。何しろ初めての生態観察でしたから、どのような場所で、どのような巣をつくるのか分からなかったからです。翌2011年に早い時期から観察を始めた結果、近くのペンションで、巣と巣立ちを確認しました。巣は、玄関わきの、発見が難しい場所に作られていました。この年、隣家での繁殖を含めて、連続3回繁殖したことにも驚きました。
 翌2012年には、インターネット上の情報から、山梨県の清里高原にあるペンションで、郵便受けでの繁殖を確認しました。さらに、2013年には、霧ヶ峰高原に住む支部会員の福澤佳子さんからの連絡により、ペンションの玄関わきの換気扇フードでの繁殖が判明し、この地域の観察も始まりました。同じ年、林支部長が塩嶺高原の別荘地内を車で移動中に餌をくわえた雄を発見したことから、塩嶺高原のログハウスでの営巣が判明しました。

繁殖の定着が確認された

 調査の結果、繁殖地点間の距離と巣立ち日の隔たりなどから、ジョウビタキが富士見高原で4年間繁殖を継続し,霧ヶ峰高原および塩尻高原で2013年に4つがいが繁殖していることが判明しました。ほかに、幼鳥の目撃など繁殖につながる情報が9件あり、これらも繁殖していた可能性があることから、ジョウビタキは八ヶ岳周辺で継続的に繁殖していると判断され,定着しており、その後の繁殖地拡大が予測されました。


調査地と繁殖関連情報
東京都ほどの面積があり、この広さが後の調査方法に大きな影響をおよぼすことになりました。

繁殖の定着が確認された

 調査の結果、繁殖地点間の距離と巣立ち日の隔たりなどから、ジョウビタキが富士見高原で4年間繁殖を継続し,霧ヶ峰高原および塩尻高原で2013年に4つがいが繁殖していることが判明しました。ほかに、幼鳥の目撃など繁殖につながる情報が9件あり、これらも繁殖していた可能性があることから、ジョウビタキは八ヶ岳周辺で継続的に繁殖していると判断され,定着しており、その後の繁殖地拡大が予測されました。

アマチュアも論文を執筆できる

 このことを、より多くの人に知ってもらい、記録として残すために、論文を執筆し学術雑誌に投稿することになりました。学術雑誌では、投稿された原稿を正しく評価できる2名の匿名の研究者による査読があります。アマチュアの執筆者にとっては難関となりますが、掲載されると高い価値があることが証明され、だれでも読むことができるようになります。
 日本鳥学会は、論文作成相談室を設置し、アマチュアの投稿を歓迎していることがわかりました。学会に原稿を送って相談したところ、論文作成相談室と日本鳥学会誌の編集幹事を兼ねていた特定非営利活動法人バードリサーチの植田睦之代表が対応してくれることとなりました。名古屋で開催されていた鳥学会大会の会場でお会いして、親切な指導を受けることができました。その後、正式に投稿し、査読結果について主筆である林支部長との相談を重ねて再投稿の結果、受理され、2014年63巻2号に短報として掲載されました。

引用文献

林 正敏(2010)本州初の記録か−ジョウビタキ繁殖. いわすずめ 134: 4-6.

林 正敏・山路公紀(2014)八ヶ岳周辺におけるジョウビタキの繁殖と定着化. 日鳥学誌63 : 311-316

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